2013/01/30

JBL 2332 and 2352 (12)

ビーム現象を生じているかいないかは、軸上(on-axis)のレスポンスグラフを見ると分かります。
エクスポネンシャルホーン、ハイパボリック、トラクトリックスのようなホーンの場合、それらの軸上のレスポンスグラフはたいてい高域までフラットです。
これは高域のエネルギーがうまく分散せず、ビームが出てしまっていることを示しています。

高域のエネルギーが分散されると、ビームの発生により上昇していた軸方向の音圧は低下し、カバー角の範囲内におけるそれ以外の方向での音圧は逆に上昇します。
このため、定指向性ホーンでは高域の軸上のレスポンスがおおよそ-6dB/octで低下します。
定指向性ホーンにおいて帯域別のEQ補正が必要なのはこうした理由です。




上のグラフはカバー角が90°の2352と、40°の2354の軸上のレスポンスグラフです。
カバー角が小さい2354のレスポンスグラフでは、高域のレスポンスの低下が小さいことがわかります。
これは、超高圧の音の塊がカバー角が広いほど分散されるからです。
2352では音の密度が十分に薄まり、一方、2354においては分散の程度が低く、その音はかなり濃密であると表現できると思います。

ところで2354のような定指向性の40°ホーンは、しかし、ビームを発生しているわけではありません。
カバー角度の範囲内において"濃密"であってもムラなく均一に分散されているからです。
こうしたホーンは、どのような音なのでしょう。
この点については、定指向性の40°ホーンであるALTEC MR2 542ホーンについてのヨハネスさんの感想が参考になります。

"距離をおいて喋っているのにすぐ傍で喋られているように聞こえる。"

90°ホーンが近距離用(short-throw)、60°ホーンが中距離用(medium-throw)、40°ホーンが遠距離用(long-throw)と呼ばれているのが理解できます。
しかし、40°ホーンではリスニングルームでの音楽鑑賞は難しいと思います。
コンプレッションドライバーによってもたらされた超高圧の音の塊は、適切なホーンを使用し、ほどよく薄めてやらないとオーディオマニアが求めるVividな音にはならない、ということです。

2013/01/28

JBL 2332 and 2352 (11)

スロート口において生成された超高圧の音の塊は、Vividな音の元になります。
リスニングルームの中に楽器の発音部に似た状態を現出させることができたからです。
しかし、この超高圧の音の塊、残念ながらかなりの難物なのです。



上の図は、スナウト付きのコンプレッションドライバーとエクスポネンシャルホーンを組合わせたもの。
ダイアフラム表面とフェーズプラグ表面との間で発生したオレンジ色の圧力は、フェーズプラグを通じてフェーズプラグの端面に集合して赤い超高圧の音の塊になります。
スナウト部分の内壁はほとんど広がらず、また、エクスポネンシャルホーンの入口付近の広がり率も小さいので、この超高圧の音の塊は広がって減圧することなくそのまま射出されるようなイメージになります。
まるで砲身から発射される弾丸のようです。

エクスポネンシャルホーンの広がり率は、スロート口からの距離の二乗に比例して増えます。
スロート口付近では、ほとんど広がっていきませんが、途中から急激に広がり始めます。
波長の長い低周波ならばこの急激な広がり部分においてもホーンの内壁に沿って広がってくれます。
低音は回り込みやすいという性質を持っているからです。
しかし、波長が短い高周波は、急激に広がってしまうエクスポネンシャルホーンの内壁に沿って広がることができません。
その結果、超高圧の音の塊が、ほぼそのままの状態を維持して弾丸のようにホーン中央から発射されることになります(右側の赤い部分がその弾丸)。
これがホーンのビーム現象です。

下の図を見てみると、エクスポネンシャルホーン、ハイパボリック、トラクトリックスの3種のホーンが、このビーム現象を起こすホーンであることが理解できると思います。




ホーンのビームが生じると、これは聴いていられません。
絵画を鑑賞しているときに絵画側からカメラのフラッシュを頻繁にたかれるようなものです。
オーディオマニアにとって、定指向性ホーンというのは、このビームを生じない点で有用なのです。
超高圧の音の塊の最大の問題であるビームを回避し、超高圧の音の塊から生じるVividな音を得ることができるからです。