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2013/03/05

JBL 2332 and 2352 (16)

1975年3月に発表されたDON.B.KEELE,JR.(ドン キール ジュニア)氏の論文「WHAT'S SO SACRED ABOUT EXPONENTIAL HORNS? (どうしてそんなにエクスポネンシャルホーンを崇め奉るの?)」の19頁に、以下のような表が掲載されています。



この表は、周波数fIと、ホーンの寸法の関係を示しています。
右側のY軸はメートル単位、左側のはインチ単位です。
なお、表の左側にある公式は、例の定指向性ホーンの限界周波数を定めるものです。

周波数fIは、"Intercept frequency(遮断周波数)"であり、これは定指向性ホーンが所定のパターンコントロール角度を維持できる低域側の限界周波数(the lower cutoff frequency for pattern control)のことです。
何度も申し上げますが、この遮断周波数とか限界周波数という概念はエクスポネンシャルホーン等のカットオフ周波数とは異なります。

この表は、パターンコントロール角度が小さくなるほど、ホーンの寸法(水平指向性の場>合はホーンの横幅寸法、垂直指向性の場合はホーンの高さ寸法)が急激に大きくなることを示しています。
80°の場合、200Hzまで定指向性を確保しようとすると、ホーンの寸法は1.56mになります。
一方、40°の場合、200Hzまで確保しようとすると、3.12mもの大きさになります。
2352のような定指向性ホーンが、単なるラジアルホーンと比べて、高さ方向の寸法が大きく採られている理由がこれです。



以前、パターン角度を比較した上図のようなウェーブガイドホーンの作図を行ったとき、指向性の狭いホーンのスロート部分の広がり方が緩やかなのが印象に残っています。
指向性が狭いホーンは、デリケートな音波を丁寧に広げてゆき、長い長い助走距離をつけて飛ばしてやる、というイメージでしょうか。



定指向性ホーンで、例えばWE 15Aホーン並のカットオフ周波数を持たせるとどの程度の大きさになるか計算してみましょう。
15Aホーンがギブアップする70Hzまで完璧なパターンコントロールを実現するためには、指向性が80°の定指向性ホーンの場合、ホーン開口の幅、高さが共に4.46m必要になります。
上の図は、グレーのが15Aで大きいのが定指向性ホーンです。
35Hzなら2倍の9m、18Hzなら4倍の18mになります。
定指向性ホーンの低音ホーンは実現不可能、と書いた理由はこれです。











Sさんが、DIY MR94の製作過程の幾つかの画像を追加して送ってくれました。
組立工程がより詳しく理解できます。
こちらをご覧下さい。
Sさん、追加画像を送っていただき、ありがとうございました。



2013/03/03

JBL 2332 and 2352 (15)

定指向性ホーンにおけるパターンコントロールの最低カットオフ周波数(the lower cutoff frequency for pattern control)について、JBLの"Audio Engineering for Sound reinforcement"の137ページには、こんな解説があります。





「一般的な定指向性ホーンは、図11-6に示すような特性を持っている。
-6dBのカバー角度は、低域側のある周波数において狭くなる。
この周波数は、垂直方向においてはホーンの高さ寸法、水平方向においてはホーンの幅寸法によって決定される。
前記の周波数以下では、回折ホーンのようにカバー角度が増大し、周波数が半減する度に2倍になる。
この回折ホーンのようなカバー角度を示す帯域のすぐ上の周波数帯域において、カバー角度はわずかに狭くなる(図11-6の"Depended on horn mouth width"で示されている周波数域)。」

限界周波数以下においては、周波数が半減する度にカバー角度が2倍になる、というのが興味深いです。
定指向性ホーンが使いやすい理由の一つとして、低域側の特性の変化が穏やかであることがあげられます。
低域になるにつれて徐々にカバー角度がブロードになってゆくために、ダイレクトラジエターのウーファーと組合わせても違和感がないからです。

エクスポネンシャルホーン、ハイパボリック、トラクトリックス等においては、カットオフ周波数以下ではホーンが全く働かず、ホーンとしての性質が急激に失われてしまいます。
即ち、定指向性ホーンのようにホーンの性質を徐々に失ってゆくという中間領域を持ちません。
このため、中高域を受持つエクスポネンシャルホーン等にダイレクトラジエターのウーファーを組合わせると、「下とつながらない」という現象が発生します。
「下」とはダイレクトラジエターのウーファーのことです。
ホーン+コンプレッションドライバーと、ダイレクトラジエターのウーファーの指向性が大幅に異なるために、高域側と低域側の性質がちぐはぐであり、違和感を生じてしまうのです。
この解決法としては、ウーファーの最低域をカットして音を軽くする、あるいは、低域側もエクスポネンシャルホーンにするという方法があります。
ウーファーの最低域をカットするとクラシックは聴けなくなるため、正攻法で行くなら低音用エクスポネンシャルホーンと組合わせることが必要になります。
ちなみに、定指向性ホーンで低音ホーンを製作すると、これはエクスポネンシャルホーン等とは比較にならないほどの巨大なホーンになってしまうため、実現不可能であると思います。





定指向性ホーンの高域側の限界周波数については、以下のような説明があります。

「パターンコントロールの高域側の限界は、ホーン取付部におけるコンプレッションドライバーのスロート口や、ホーンの回折部であるスロット(ギャップ)の幅によって決定される。
スロート口やスロット寸法が大きくなれば、高域側の限界周波数は低くなってしまう。」

図11-6の"Dependent on driver exit diameter"で示されている周波数です。
定指向性ホーンの高域側のカットオフ周波数と言えます。
水平指向性の高域側の限界周波数を定めるスリットの幅は、2360のような2ウェイ用ホーンの場合、2cm程度です。
垂直指向性の高域側の限界周波数は、スロート口の直径になるので、これはドライバーの選択によって決定されます。
例外的に、ALTEC MR94では、スロート口の垂直方向が狭められています。
これが高域側の限界周波数を高めるためなのか、それともパターンコントロールのためなのかは、謎です。





なお、高域側の限界周波数のすぐ下の周波数帯域において指向性がブロードになる傾向が見られるのですが、この点についての説明はありません。
残念です。

以上の説明から、定指向性ホーンには垂直方向の低域側と高域側、水平方向の低域側と高域側のそれぞれ4つのカットオフ周波数が存在することが理解できたと思います。
ええっと、(14)で説明したように、このカットオフ周波数は、エクスポネンシャルホーン等のカットオフ周波数とは異なる概念なので誤解なきよう。
これが理解できると、定指向性ホーンを自作する場合、スリットの幅と低域側の限界周波数を決めてしまうと、おおむね設計できることが分かると思います。



2013/02/27

JBL 2332 and 2352 (14)

2352を同じような性能をもつ2380Aと開口部の形状を比較してみると、2352の縦方向の寸法は2380Aよりも随分大きいことが分かります。
2352の縦寸法は457mm、2380Aのは279mm。
2352では垂直方向にもフレア(added flare)を設けて開口縁での反射を低減している、と説明することができますが、こうした寸法のちがいは垂直指向性における低域側の限界周波数を引き下げる効果も持っています。


定指向性ホーンのカットオフ周波数の考え方は、音響インピーダンス整合の限界周波数とするエクスポネンシャルホーンの考え方とは大きく異なります。
定指向性ホーンでは、「所定のパターンコントロール角度の維持が可能な限界周波数」という考え方を採るためです。
さらに、この限界周波数は当然のことながら、水平指向性と垂直指向性のそれぞれについて決定されることになります。
ですから、定指向性ホーンの低域側のカットオフ周波数は、「水平が358Hz、垂直が806Hz」というような表示になります。





上の画像はJBLの"Audio Engineering for Sound reinforcement"の139ページです。
ここには、定指向性ホーンにおける最低周波数の計算式が掲載されています。

「f0=1000000/θh

f0: 低域側限界周波数
θ: -6dBパターンコントロール角度
h: ホーン開口寸法」

これはキール氏のJBL 2360の米国特許公報に記載されていた例の計算式、W=K/AFと実質的に同じです。
定数が25000m・degrees・Hertzと記載されていたので、25000とはおかしな定数だなぁと思っていたら、要するにホーンの高さと幅寸法をインチ単位で計算するからこんな定数になっていたのです。
米国特許に記載されているパターンコントロール角度は0.9B、1インチ=0.0254mということで計算するとだいたい似たような値になると。

そして"JBL Audio Engineering for Sound reinforcement"の解説には、こんなことが書いてあります。

「上記の計算式、f0=1000000/θhは、垂直指向性と水平指向性をそれぞれ計算して求めなければならない。JBL 2360の場合、ホーンの水平、垂直の寸法は何れも31インチ。90°の水平指向性を維持できる低域側の周波数は、f0=1000000/θhという上記の式から358Hzとなる。同様に40°の垂直指向性の低域側の周波数は806Hzになる。」

上記説明の文章には低域側の限界周波数について、パターンコントロールの最低カットオフ周波数(the lower cutoff frequency for pattern control)という表現が用いられています。
これからも分かるように、定指向性ホーンのカットオフ周波数の概念は、エクスポネンシャルホーン等のカットオフ周波数(音響インピーダンス整合が可能な限界周波数)とは、全く異なる考え方に基づいています。

エクスポネンシャルホーン、ハイパボリック、トラクトリックス等のホーンの軸上のレスポンスがフラットな状態をして音響インピーダンス整合がとれている、などと説明されても、軸外のパターンコントロールが出鱈目では「整合」の意味がありません。
定指向性ホーンの出現により、音響インピーダンスのマッチングという概念に基づくカットオフ周波数はホーン設計における絶対的な要素ではなくなりました。


2013/02/22

JBL 2332 and 2352 (13)

2352のホーン形状、特にスロート部分の形状を観察してみよう。


水平方向においては、Cの狭まった部分にスリット(ギャップ)が形成されており、ここで回折現象が 生じる。
この回折現象により、フェーズプラグの端面に発生した超高圧の音の塊が分散されます。
そして、この分散範囲は、Bのウェーブガイド部分により指向性を与えられる。
Bの壁面の広がり角度は90°の指向性を公称する場合、およそその90%である80°近辺になります。
なお、Aの部分はホーンの縁部での反射を和らげる部分であり、キール氏の論文によればBの広がり角度の2倍になります。
また、Bの部分の軸長は、Aの部分の軸長の半分になる。


 

この2352は、JBLによるとバイラジアルホーン(optimizied aperture bi-radial horn)とされていますが、"added flare"であるAの部分がラジアルであるだけであり、 ホーンの主要部分であるBの部分はコニカルホーンです。
この部分をコニカルで構成するウェーブガイド理論の影響だとは思いますが、複合コニカルで構成されているALTEC MR94の音の素直さにJBLは気付いていたのではないか?



水平方向に対して垂直方向の形状は、図面を見ている限り単純に見えます。
即ち、コニカルホーンであるBの部分とその外側に広がるAの部分だけ。
しかし、水平方向のCの部分により、垂直方向においてもフェーズプラグの端発生した超高圧の音の塊が分散されます。
超高圧の音の塊は、Cの部分を通過することにより、スリットの縦長の長方形状に分布するように導かれてゆきます。
下はHiFi堂のデータベースに掲載されていた2352の画像です。


下は2352の姉妹機である2332。
このスロート部分も同様の形状を有しています。


しかし、2352において、Beamwidth vs. Frequencyのグラフ図を見ると、この垂直方向の分散はうまくいっていないような気がします。
垂直指向性(Vertical)が2kHzから8kHzに向かってどんどんナローになっていく傾向は、2352だけではなく、2332や2380でも見られます。
こうした傾向を持たないのは2360です。
おそらく、2360の軸長の長いスロート部により、垂直方向の音圧分布が十分に均一化されるのだと思います。











ビールぐらいしか飲まない。

もらいものの赤ワインを電子レンジでホットワインに。
クローブ、シナモン、カルダモンのパウダー。
もらいものの蜂蜜を加える。
もらいもののメープルシロップも大量にあまっている…

うまい、です?






2013/01/30

JBL 2332 and 2352 (12)

ビーム現象を生じているかいないかは、軸上(on-axis)のレスポンスグラフを見ると分かります。
エクスポネンシャルホーン、ハイパボリック、トラクトリックスのようなホーンの場合、それらの軸上のレスポンスグラフはたいてい高域までフラットです。
これは高域のエネルギーがうまく分散せず、ビームが出てしまっていることを示しています。

高域のエネルギーが分散されると、ビームの発生により上昇していた軸方向の音圧は低下し、カバー角の範囲内におけるそれ以外の方向での音圧は逆に上昇します。
このため、定指向性ホーンでは高域の軸上のレスポンスがおおよそ-6dB/octで低下します。
定指向性ホーンにおいて帯域別のEQ補正が必要なのはこうした理由です。




上のグラフはカバー角が90°の2352と、40°の2354の軸上のレスポンスグラフです。
カバー角が小さい2354のレスポンスグラフでは、高域のレスポンスの低下が小さいことがわかります。
これは、超高圧の音の塊がカバー角が広いほど分散されるからです。
2352では音の密度が十分に薄まり、一方、2354においては分散の程度が低く、その音はかなり濃密であると表現できると思います。

ところで2354のような定指向性の40°ホーンは、しかし、ビームを発生しているわけではありません。
カバー角度の範囲内において"濃密"であってもムラなく均一に分散されているからです。
こうしたホーンは、どのような音なのでしょう。
この点については、定指向性の40°ホーンであるALTEC MR2 542ホーンについてのヨハネスさんの感想が参考になります。

"距離をおいて喋っているのにすぐ傍で喋られているように聞こえる。"

90°ホーンが近距離用(short-throw)、60°ホーンが中距離用(medium-throw)、40°ホーンが遠距離用(long-throw)と呼ばれているのが理解できます。
しかし、40°ホーンではリスニングルームでの音楽鑑賞は難しいと思います。
コンプレッションドライバーによってもたらされた超高圧の音の塊は、適切なホーンを使用し、ほどよく薄めてやらないとオーディオマニアが求めるVividな音にはならない、ということです。

2013/01/28

JBL 2332 and 2352 (11)

スロート口において生成された超高圧の音の塊は、Vividな音の元になります。
リスニングルームの中に楽器の発音部に似た状態を現出させることができたからです。
しかし、この超高圧の音の塊、残念ながらかなりの難物なのです。



上の図は、スナウト付きのコンプレッションドライバーとエクスポネンシャルホーンを組合わせたもの。
ダイアフラム表面とフェーズプラグ表面との間で発生したオレンジ色の圧力は、フェーズプラグを通じてフェーズプラグの端面に集合して赤い超高圧の音の塊になります。
スナウト部分の内壁はほとんど広がらず、また、エクスポネンシャルホーンの入口付近の広がり率も小さいので、この超高圧の音の塊は広がって減圧することなくそのまま射出されるようなイメージになります。
まるで砲身から発射される弾丸のようです。

エクスポネンシャルホーンの広がり率は、スロート口からの距離の二乗に比例して増えます。
スロート口付近では、ほとんど広がっていきませんが、途中から急激に広がり始めます。
波長の長い低周波ならばこの急激な広がり部分においてもホーンの内壁に沿って広がってくれます。
低音は回り込みやすいという性質を持っているからです。
しかし、波長が短い高周波は、急激に広がってしまうエクスポネンシャルホーンの内壁に沿って広がることができません。
その結果、超高圧の音の塊が、ほぼそのままの状態を維持して弾丸のようにホーン中央から発射されることになります(右側の赤い部分がその弾丸)。
これがホーンのビーム現象です。

下の図を見てみると、エクスポネンシャルホーン、ハイパボリック、トラクトリックスの3種のホーンが、このビーム現象を起こすホーンであることが理解できると思います。




ホーンのビームが生じると、これは聴いていられません。
絵画を鑑賞しているときに絵画側からカメラのフラッシュを頻繁にたかれるようなものです。
オーディオマニアにとって、定指向性ホーンというのは、このビームを生じない点で有用なのです。
超高圧の音の塊の最大の問題であるビームを回避し、超高圧の音の塊から生じるVividな音を得ることができるからです。



2013/01/25

JBL 2332 and 2352 (10)

ホーンからVividな音が出るのは何故か?ということを最初に考えておく必要があります。
これが理解できないとホーンの仕組みの話をしてもイメージできない。

Vividとは(色彩・光などが)鮮やかな、鮮明な、強烈な、というような意味です。
オーディオ雑誌で使用されている原音再生という言葉は究極的にはVividな音を再生できるかどうかということを問題にしています。

マイクで音を拾い、それを電気的に増幅し、最後にスピーカーから音を出すというのがオーディオシステム。
これを少し詳しく見てゆくと、こんな具合です。

(1)楽器から音が出て、
(2)音が空気中を伝播し、
(3)その音がマイクの振動板を振動させる。

(4)マイクの振動板の振動は電気信号に変換され、
(5)アンプでその電気信号を増幅、
(6)増幅された電気信号がスピーカーに供給される。

(7)スピーカーの振動板が振動し、
(8)音が空気中を伝播し、
(9)聴取される。

(1)の楽器から音が出る、というのはヴァイオリンの弦やシンバルの金属板の振動が空気を"叩く"ことです。
固体の振動エネルギーが気体である空気に伝播する。
発生した音、即ち空気の粗密波は、(2)の音が空気中を伝播することによって、ややマイルドになります。
マイルドになった音はマイクの振動板にぶつかってエネルギーを伝播し、マイクの振動板が振動する。



アンプで増幅してスピーカーの振動板を振動させても、再現されるのはマイクで拾った音です。
マイクで拾った音は空気中を伝播しマイルドになってしまった音。
ならばマイルドになってしまう前のVividな音を収録すればいい。

その方法は、なるべく楽器に近い位置にマイクを設置すること。
できれば楽器の発音部の振動を直接マイクで拾う。
これだけでは不自然な録音になってしまうので、初期反射や残響を別のマイクで拾いミックスする。

こうした録音方法を採らずとも手はあります。
それがホーンを使うということ。

固体の振動エネルギーを気体である空気に伝えるためには空気を効果的に"叩く"必要があります。
しかし圧力が高まればすぐに大気圧である他の場所へ逃げ出してしまう空気を効果的に"叩く"ためには空気を狭い場所に閉じ込めておくのが一番。
これなら大気圧である他の場所へ移動できない。
そしてこれを可能にするのがコンプレッションドライバー。
厳密に言えば、コンプレッションドライバーのダイアフラム表面と、このダイアフラム表面に向かい合っているフェーズプラグ表面との間の狭い空間で空気は効果的に"叩かれる"。

でもコンプレッションドライバーの秘密はこれだけじゃない。
フェーズプラグの複数のスリットを通してダイアフラム表面とフェーズプラグ表面との間で発生した全ての圧力がスロートに集合させられる。
ここで超高圧の音の塊が作られる。
コンプレッションドライバーは、マイクにより集音されたマイルドな音をベースにしつつ、楽器の発音状況を越えた猛烈な高エネルギー状態を作り出せるということです。



ここで空気のことを少し考えてみる。
扇風機(electric fan)の正面に立つと気流がこちらに向かって流れていることが分かる。
しかし、扇風機の背面に立つと気流は発生していない。
扇風機背面側の近くの空気をまんべんなく引き込んでいるにすぎない。
だから正圧と負圧の発生メカニズムは性質が異なる。

爆弾が爆発すると衝撃波が目視できます。
見えているのは正圧。
しかし負圧はこの正圧を際立たせている。
圧力差が大きいほど屈折率が異なるから。

"叩く"と表現すると正圧を連想するが、コンプレッションドライバーは負圧の発生においても優れている。
そして負圧をしっかり再現できると正圧が引き立つ。
アブソリュートの位相の話、だから本当は正相、逆相が分かりにくいスピーカーが優れている。

2013/01/23

JBL 2332 and 2352 (9)

2352ホーンの導入に迷っていた頃、気になっていたのはそのBeamwidth vs. Frequencyのグラフ図でした。
下のグラフがそれです。


垂直指向性(Vertical)が2kHzから8kHzに向かってどんどんナローになっていきます。
新型の定指向性ホーンなのに何故こんな特性なのかと。
下のグラフは2360Aのもの。
こちらではそうした傾向は見られません。


この2352の垂直指向性の特性はスピーカーから遠く離れた席でも子音を明瞭に聴かせる目的があるのではないかと考えています。
映画館のスクリーンに近い客席は指向性の広いスピーカーでなければカバーできません。
しかし、スクリーンから遠い客席に音を届けるためには指向性は狭くても良いからです。

米国人はthの発音のような摩擦音や破裂音に敏感なのではないかと思っています。
会話していてもこれが聞き取れないと「今、なんて言った?」と聞き返してくる。
日本人は舌の筋力が弱くこうした英語の強烈な摩擦音や破裂音は発音できないし、聞くことにもなれていない。
JBLトーン、という言葉もこれが原因ではないかと。

垂直指向性を絞って、この摩擦音や破裂音を遠くの席でも聴き取りやすくしているのではないでしょうか。
一方、水平指向性をこんな具合に絞ると、これは視聴エリアの設定ができなくなってしまう…

2352はJBLのフラッグシップである5000番シリーズに採用されているホーンです。
ですから2352が導入される映画館は客席数も最大規模であり、また、JBLの商品ラインナップの位置づけとしては中規模用の2360Aより格上のホーンになります。
こういう配慮で作られているとしたらシロートが口を挟むような特性ではない、ということかもしれません。

2012/04/05

JBL 2332 and 2352 (8)

1.5インチ径スロートの2352と組合わせるドライバーとして発売されたのが2447H/Jと2451H/Jでした。
1993年頃だと思います。
この2447、2451に先だって1988年に発売されたのが2450H/J
こちらは2インチ径スロート。







2450はネオジム磁気回路を最初に搭載したドライバーであると共に、フェージングプラグが新しいタイプになったことが特徴です。
そのコヒーレント(整合的な) ウェーブ フェージング プラグについて2450のパンフレットには以下のような記載があります。

"The newly-developed Coherent Wave phasing plug assembly consists of four die-cast annular aperture structures of constant path length to provide in-phase combining of diaphragm output at the driver’s exit.
This optimized configuration allows coherent summation of energy up to much higher frequencies than previous designs, with an attendant increase in perceived high-frequency clarity."

要約すると「4つの環状スリットの音道長を等しくすることによりドライバーの出口で位相の整合を図ることができ、これにより高域側のレスポンスや明瞭さを向上することができる」ということになります。

ところでウェーブガイド理論は1987年10月16日から19日までニューヨークで開催された第83回AES総会で発表されています。
ウェーブガイドホーンはスロート口へ供給される音波が平面波であることが前提となっています。
コンプレッションドライバーの出口から放射されている音波は平面波なのでしょうか?
これについては後日。

JBLの技術者は1987年の冬から実験を開始。
コンプレッションドライバーの出口における音波の放射状態を検証したのだと思います。
ホーンのスロート口付近での音波の拡散状態も。
当然フェージングプラグはコヒーレントウェーブタイプでなければこうした検証はできない。
2450のフェーズプラグはその実証実験用として生まれたのではないか。
そして2450やそのスナウトレスタイプによる検証を通じてJBLはホーンやドライバー全般について見直しを始めた…

5年後に出現した2352、2447、2451は1.5インチスロートというフォーマット変更をもたらした。
これはスロートというドライバーとホーンの結合部とドライバーのフェーズプラグに関するJBLの新たな見解に基づいていた。
このとき多くのオーディオマニアが脱落したが、理解できなかったのだから仕方がない。
残念なことです。






下の画像はTD-4003。
JBLが1.5インチスロートを発表した直後にTADがあわてて発売したドライバー。
当時スナウトレスの意味を理解できなかったのはマニアだけじゃなかった。















2012/03/24

JBL 2332 and 2352 (7)

ところで"Figure 1B. New driver configuration."に記載されている"Fast flare rate"は2352のどこの部分なのでしょうか?
下の図は上が2352の平面図であり水平方向におけるホーンの外形を、下が側面図であり垂直方向における外形を示しています。





水平方向における部分Cはスリット(ギャップ)が形成されているため急速な広がり率を持つ部分とはいえません。
そうすると垂直方向におけるコニカル部、部分Bのスロート側が"Fast flare rate"を実現している部分ということになります。



2012/03/18

JBL 2332 and 2352 (6)

2352はOptimized Aperture Bi-Radial Horn(オプティマイズドアパチャーバイラジアルホーン)と呼ばれています。
アパチャーは「開口部、孔、隙間、口」というような意味なのでスロート口を最適化したホーンという意味になると思います。

この「最適化」はホーンだけではなく組み合わされるコンプレッションドライバーのスナウトレス化を伴います。
下の図はJBLのテクニカルノート"JBL’s New Optimized Aperture Horns and Low Distortion Drivers"に掲載されているもの。
コンプレッションドライバーのスナウト(筒先)を取り外すことにより、スロート口の直径が50mm(2インチ)から37mm(1.5インチ)に小径化されていることが分かります。






上記テクニカルノートによると、こんな説明がなされています。

「現在のドライバーにはネオジムマグネットや薄いフェライトマグネットを使用しているため、アルニコマグネットを用いた磁気回路には必須となるスナウトを必要としない。」

「スナウトがあるコンプレッションドライバーと組合わせるホーンのスロート口近傍におけるフレアレート(ホーンの広がり率)は約160Hzである。
これはトーキー(1930年前後の映画)で使用されていた巨大なホーンに合致させる設計手法によるものである。
しかし、今日のコンプレッションドライバーのクロスオーバー周波数は800Hzである。」

「オプティマイズドアパチャーホーンにおけるスロート口における急激な広がり率(rapid flare rates)は、高域におけるパターンコントロールを改善する。
な ぜならフェージングプラグがホーンの仮想頂点にあり、フェージングプラグから見て良好なサイトライン(sight line/劇場で観客とステージをまっすぐで妨げられない視線、ここではフェージングプラグから放射された音波が遮蔽物なしにホーン全体に広がることを意 味する)を実現するからだ。
これは極端に広いカバー角度をもつホーンにおいても実現される。
そして、高域の音波はウェーブガイドへくまなく放射され、ホーンの軸線のビームの発生を小さくすることができる。」

Today, with very small, high energy neodymium magnets and thin profile ferrite magnets, we do not need that space.
The overall depth of the driver can be significantly reduced, as shown in Figure 1 B, providing a relatively rapid flare into the throat of the horn.

By our calculations, the initial flare rate in the older driver design was approximately 160 Hz, reflecting the need to drive the very large horns that were used in early motion picture systems.
Today, we can double or quadruple that flare rate, inasmuch as many horns are
now intended for nominal crossover at 800 Hz.

Rapid flare rates offer an opportunity to make improvements in high frequency pattern control.
Since the exit of the phasing plug is virtually at the apex of the horn, there is normally an excellent sight line into the phasing plug, even at the extremes of angular coverage;
this is virtually a guarantee that high frequency signals will illuminate the entire wave guide and show little tendency to beam on axis.







オプティマイズドアパチャーホーンの効果のひとつとして高調波歪の低減があります。
上のグラフはAが2380と2450(タイプミスで24S0となってますね)、Bが2352と2451の組合わせ。
5kHz以上の高域における2次高調波歪が激減しています。
フェーズプラグからホーンの隅々まで見通しが利くから歪が低減するというのは説得力があります。


2012/03/15

JBL 2332 and 2352 (5)

2352が出現したときはかなり衝撃を受けました。
何故ならまだ2インチ径のスロート口をもつコンプレッションドライバーを持っていなかったからです。
従来のドライバーを装着できないホーン…

さらにあまりにもホーン長が短く、そして残念なほど軽量だった。
たったの10インチ、そして2.2kg…
ホーンは長く重くないとダメだと思い込んでいた。

しかし、2352について長い間考え込んでいたからか、今では2352を別の方向から評価することができるようになりました。








2352の外観図を眺めていると、2360や2380とずいぶん異なることが分かります。
2360や2380のような長いスロート部がありません。
スロート部は非常に短く、スリット(ギャップ)もとても小さい。








それにスリットから続く左右のホーン面は平坦面であり、これはウェーブガイドホーンのようです。
ところがこの2352はウェーブガイドホーンではなく、Optimized Aperture Bi-Radial Horn(オプティマイズドアパチャーバイラジアルホーン)と呼ばれています。




2352、君のことが好きだった、というわけで昔のスピーカーファイルの中から数枚を。
ネットワークの設計図などがあり、これでマトモな音に追い込めると思ってたんだ...
2360Aを入手するはるか以前のものです。







2012/03/10

JBL 2332 and 2352 (4)

PEAVEY社の米国特許6059069号の続きです。

ウェーブガイドホーンが従来のホーンと一番違うことはスロート口へ供給される波面が平面波でなければならないという点です。
下の図は上記特許の図5です。
スロート口14に接続されたドライバーから供給された平面波は曲面部分24から平坦面42へと進行する。
このとき、波面は常にホーン壁面に対して直角となりスムーズに進行します。








定指向性ホーンではスリット(ギャップ)による回折現象を利用して拡散していましたが、ウェーブガイドホーンは、曲面部分24により平坦面42のコニカルホーン部へスムーズに移行させつつ拡散させます。
正確な球面波が進行するということです。
このため大音量時における歪率の低下を達成することができました。









リボン型ユニットがウエーブガイドホーンのドライバーとして採用されるのは平面波とこのホーンとの相性が良いためです。
上のシステムはリボン型ユニットを採用したPeavey社のVersarray 112です。









ウェーブガイドホーンと称していますが、曲面部分24は見当たらず、複合コニカルといった雰囲気です。


2012/02/28

JBL 2332 and 2352 (3)

下の画像はPEAVEY社の米国特許6059069号に掲載されている図1です。











上の特許図面は煩雑で理解しにくいので作図してみました。
下の図は普通のコニカルホーンです。
スロートから80°の広がり角度を持っています。










 下の図はPEAVEY社の米国特許に基づいて作図したウェーブガイドホーンです。










このウェーブガイドホーンは、スロート部(赤)とベル部(黒)の2つの部分を有する複合ホーンです。
ベル部のコニカルホーンは、両壁面の延長線がスロート口の中央で交差する点で普通のコニカルホーンとは異なります。

スロート部は半径R(青)の円弧をもつ曲面で構成されています。
この円弧の半径はtanθを用いた簡単な連立方程式でももとめられますが、この図のように作図からもとめることもできます。
半径Rの円弧の中心角度はコニカルホーン部の広がり角度の半分の角度になります。
この例では広がり角度は80°ですから、円弧の中心角度は40°になります。
このため交点Aから70°の角度をもつ線を描き、この線がスロート口の延長線と交わった点までの距離が半径Rとなります。


下の図は広がり角度が大きくなるにつれてスロート部が小さくなる様子を描いたものです。
広がり角度は60°、80°、100°です。









2012/02/23

JBL 2332 and 2352 (2)

ウェーブガイド理論はむずかしい理論ではありません。
一言でいうと音波の波面(acoustic wavefront)をうまく手なずけて望ましい放射パターンを獲得するという理論です。

アップロードを断念した4つの論文の代わりに、以下の3つの特許文献でウェーブガイド理論を理解してみよう。
3つの特許が並存するのですからウェーブガイドホーンと言っても色々なタイプがあるのです。
同じ定指向性ホーンでも面構えの異なる2360AとMR94があるように。


1. 我らがPEAVEY社のUS6059069号
この米国特許による同社のQuadratic-Throat Waveguideの解説もアップロードしておきます。

2. アップロードを断念した4つの論文の筆者であるEarl Russell GeddesさんのUS7068805号
4つの論文には掲載されていない興味深いホーンの図面が掲載されています。

3.我らがJBL社の(またかい!)US7936892B2号。
彼らが呼ぶところのProgressive Transition (PT) Waveguidesの米国特許なのだよ。
登録日が2011年3月3日でありようやく現代に追いつきました。


これら3つの特許の中で最も理解しやすいPEAVEY社の特許から見てゆこう。





2012/02/15

JBL 2332 and 2352 (1)

ウェーブガイド理論について調べていたころ、ネットで
"Acoustic Waveguide Theory"
"Acoustic Waveguides In Practice"
"Acoustic Waveguide Theory Revisited"
"Sound Radiation From Acoustic Apertures"という4つの論文を入手しました。

しかし、これら論文は論文の執筆者自身がネットで開示しているものではないため、アップロードすることは問題があると判断し断念しました。
ごめんなさい。



原典の引用なしで説明するというのは・・・
う~む、これは不可能か。









Commented by johannes30w at 2012-02-17 17:04 x
バカでも解るようなご説明をお待ちしております。
(^^)/

Commented by kiirojbl at 2012-02-17 20:44 x
2352が2360や2392とは違うホーンだということをお話しようと思って。
2352はスロート部がない。

Commented by johannes30w at 2012-02-18 03:06 x
あははは
もっとお願いします   !(^^)!

Commented by kiirojbl at 2012-02-18 14:30 x
今度こちらにいらっしゃったときには声をかけてください。
おいしものでも食べに行きましょう。



2012/02/09

JBL 2360A(12)

2360AとMR94Bはいずれも水平指向性が90°です。
しかし、その指向性パターンはかなり違います。

下のグラフの上段はMR94Bの水平指向性のパターン(濃い線)を示しています。
下段は2360A
実線の500Hzと8kHzをMR94Bのそれと比べてみてください。





 





下のグラフも上段はMR94B、下段は2360A。
こちらは1.25kHzと3.15kHzです。









どちらの指向性パターンが優秀なのかは、前方90°の範囲内における均一性や、側方や後方への回り込み量など、比較する要素が複数あるためにわかに判断できませんが、MR94Bの方が側方への回り込み量がかなり少ないのが見てとれます。
2360Aの厚みのある音とすっきりした印象のMR94の音。
こうした指向性パターンの違いも音の違いに影響を与えていると思います。



2360Aというバイラジアルホーン対複合コニカルのMR94。
ライバルの存在が互いの特徴を明らかにします。
スロート口の絞り形状、全長に占めるスロート部の長さ、スリットの幅、ベル部内側の開き角度、ベル部外側の開き角度、ベル部内側と外側の長さの割合等々、多くの構成要素が異なっています。

ホーンの歴史から見ると、定指向性を実現したことは革命的な出来事でした。
しかし、定指向性というのはホーンの有する特性の一つにすぎません。
2360AとMR94を定指向性ホーンという呼び名で同類に分類するにはあまりにも構成やその音に差があるように思っています。




2012/02/03

JBL 2360A(11)

指向性パターンについてさらに考えてみよう。
下の画像はALTECの米国特許4187926号に掲載されている図5である。

2.5kHzにおける指向性パターン。
MRシリーズの原型となったALTEC社の試作ホーンと従来の他社製ホーンとの比較。
試作ホーンのラインは符号40であり、他社製ホーンのラインは符号41。









この他社製ホーンについて、この米国特許公報には"that described in U.S.Pat. No.4071112(米国特許4071112号に記述されている)"としている。
これはEV社のHR6040だろうと思っている。
なお、EV社の古いホーンについてはこちらを。

上の図5は、その指向性の狭さから見て、おそらく水平指向性パターンではなく垂直指向性パターン。
ちなみにHR6040の2.5kHzは下のようなパターンである。

薄いラインで描かれているのが垂直指向性のパターン。
中央に表示されている60°は水平指向性の6dB落ちの範囲を示し、45°は垂直指向性のそれを示している。







図5のライン41と見比べてみると、側方(90°と270°)の方向に膨出している点が共通している。
EV社のグラフの方が整っているが、これは両社の測定環境の差と、好意的かどうか、の差だろう。






図5のライン41の側方への膨出を見て、"ウエストバンディング効果"という不思議な言葉を思い出したなら、あなたの記憶力は相当なものだ。
メタボ腹をベルトで締め付けると・・・たまらず贅肉が側方へ膨出する。
美しくない現象を美しくない喩えで説明する。
これがALTECのセンスである。

そして、この現象を抑えるためには"ベル部に平坦面を用いる"のが良い、と記述がある。
それはそうだろうと思う。
外側に徐々に広がる曲面なら、音波が側方に回り込みやすいというのが、なんとなくイメージできる。
これが曲面ではなく平坦面なら音波はホーンの側方に出かけてみることに興味を持たなくなる、ということだ。

このイメージは理解しやすい。
しかし、だからといってそんな安直なイメージによって"平坦面最高"などという単純な話にはならない。




2012/01/17

JBL 2360A(10)

今年はオーディオ歴40周年という節目の年。
しかし、寒いのでホーンの製作ができません、というかサボってます。
そろそろ戦闘を開始せねば。
でもやっぱり寒っ…

ところでJBL HornのカテゴリDIY Speakerを製作するにあたり検討した資料の総まとめのつもり。
2360A、2392、2332や2352のこと、それからウェーブガイドホーンの理論とJBLのウェーブガイドホーンについて展開しようと思っています。
DDCHの製作時にホーンについてどの程度理解していたのかを記録に残すべきだと。








で、突然話は始まっちゃう。

2360Aは超広帯域の2ウェイ用ホーン。
それ以前のホーンシステムは5ウェイとか6ウェイにならざるを得なかった。
そういうシステムに使用されていたホーンは、必ず特定の帯域でビーム感を生じる。
そのビーム感を生じる帯域をカットするためにその帯域を他のホーンに任せた。
さらにその「他のホーン」のビーム感を生じる帯域をカットするために「さらに他のホーン」にその帯域を任せる…

ホーンがビーム感を生じる帯域を持たない場合、上記のようなホーン補完計画?とも言える5ウェイとか6ウェイのホーンシステムを構築する必要が無い。
指向性云々という以前に、ビーム感を発生しないという性格はホーンシステムの構築において大きなアドバンテージになる。
しかし、2360Aが2ウェイというシンプルな構成の4675のような比較的コンパクトなホーンシステムを構築することができるのは、他にも理由がある。
指向性というより、音響エネルギーの分布パターンのマジック。

2360Aの場合、水平指向性は90°だから、左右45°の方向において軸上よりも6dB、レスポンスが低下している。
そしてこの6dBのレスポンス低下が生じる左右角度は300Hzから10kHz以上に渡り、維持されている。
ところが帯域によってその指向性パターンは異なっている。









上のグラフはJBL Professional White Paper New 4675C-HF with 2360Bに掲載されている2360Aの水平指向性パターン。
左側のグラフの実線500Hzと右側の実線8kHzを比べてみよう。
500Hzと8kHz、どちらも300°と330°のほぼ中間、30°と60°のほぼ中間で6dB落ちになっています。
これが水平指向性90°を意味している。

ところが、実線グラフの全体の形は全然ちがいます。
500Hzの方は下半分も膨らんでいる。
これは後方(180°の方向)へも音圧が回り込んでいることを示している。
一方、8kHzの方はそうした回りこみはない。

下のグラフ、左側の実線は1.25kHz、右側は3.15kHz。
低域側になるにつれて後方への回り込みが増えてくる。
しかし、6dB落ちの角度は不変であることに注目。





オーディオマニアなら誰でも知っているように低音というのは回り込む。
2360Aの凄いところは、全ての帯域において90°という指向性だけはきっちり守りつつ、その一方、低域になるほど側方や後方への回り込みを増やしているという点。

エクスポネンシャルホーンの低域特性と比べてみると…
カットオフ周波数でがっくりとレスポンスが低下する。
このとき突然指向性がブロードになってしまう。

ダイレクトラジエターのウーファー部とこの手のホーンが聴感的につながらないというのはこれが原因。
低域になるにつれて自然な低音の回り込みを許さないホーンの場合、ウーファー部もホーンタイプにしないとうまくつながらない。

2360Aはダイレクトラジエターのウーファー部と組合わせることができる。
比較的コンパクトなホーンシステムを構築することができる、とはそういう意味なのです。









500Hz、1kHz、2kHzと等音圧線の分布はそれぞれ異なります。
しかし、-6dBの等音圧線に注目すると、何れの帯域においても、垂直(90°)の方向では20°をやや越える位置、水平(0°)では40°を超える位置を通っていることが分かります。






2012/01/06

JBL 2360A (9)

あけましておめでとうございます。
今年もよろしく。



2360Aの音が客観的に理解できるようになったのはMR94と付き合いはじめてからです。
どちらも2ウェイ用の超広帯域型大型ホーンという同じ土俵で戦う製品。
また、いずれもALTECとJBLの両社の社運をかけて開発されたという経緯があります。

この2つのホーン、音色の傾向がかなり違います。
簡単に言ってしまうと2360Aは厚みを感じさせる音、MR94と94Aは素直でストレートな音。
これはドライバーではなくホーンの違いによるもの。
この事実を知ってから、音のちがいの原因について考えるようになりました。

ホーン全体のプロポーションの相違、これについては2360A(8)で書きました。
しかしそれだけではない。
やはり2360Aの曲面構成とMR94、94Aの平面構成の差ではなかろうか、と考えています。

コニカルホーン派のBill Woodsさんも、コニカルホーンは色づけがないとおっしゃっている。
キール氏の論文でもコニカルホーンの優れた特性が紹介されている。
さらに、現代ホーンの主流であるウェーブガイドホーンもコニカルホーンが基調になっている。








当時のALTEC社はどのように考えていたのか。
キール氏の定指向性ホーン理論が登場したのは1975年3月。
MRシリーズの基になった特許出願は1977年6月27日。

上の画像はALTEC社の複合エクスポネンシャルホーンの特許出願のもの。
出願日は1977年11月21日。
MRシリーズの特許出願と略同時期。

ALTEC社の技術者はキール氏の定指向性ホーン理論を詳細に検討したと思う。
そして、彼らはその理論が複合ホーンに対して、あるいはコニカルホーンに対して新たな技術的視点を与えていることに気付いた。
そこでフレアレートの異なるエクスポネンシャルホーンの複合形態も試してみたのだろう。






ALTEC社ほどホーンと長く付き合い続け、そして苦しめ続けられたメーカーはない。
それだけにホーンを、特にエクスポネンシャルホーンを知り尽くしている。
そのALTEC社が最後に辿り着いたのがコニカルホーンの複合形態だった。
これはとても興味深い事実だ。

2360AとMR94、94A、どちらが優れているのか。
ビジネスの観点からは2360A、音の観点からはMR94、94Aだと思っている。
2360Aは15インチダブルウーファーとの組み合わせを想定して音造りがなされているように思える。
MR94、94Aはそうした用途を限定することがないままに純粋に完成度の高いホーンを目指して作られたのではないか。

しかし優れた戦略が無ければ市場では敗北する。
ALTEC社は優れた兵器の開発に成功したが戦略で失敗した、のかもしれない。